アクセス解析
Sorry, Japanese Only.
Since 1999.7.19
Hits. Thank you !!
Copyright (C) 1999-2009 Yajiman, All rights reserved.
TOPページへ 自己紹介へ 不定期日記へ 面接奮闘記へ 各種企画へ 倉庫へ
TOP倉庫 > ドラえもん最終回
ドラえもん最終回



 ドラえもんの最終回です。実際には連載が続いていますので、『最終回っぽい話』といったところでしょうか。最初の3つが実際に漫画化されたもの。下の4つが、誰かが創作したものになっています。

 当サイトは、ドラえもんを応援しています。



● 最終回 原作1

● 最終回 原作2

● 最終回 原作3

● 最終回 創作1

● 最終回 創作2

● 最終回 創作3

● 最終回 創作4





■ 最終回 原作1


 ある晩、のび太が目を覚ますと、知らない大勢の人間がのび太の部屋のカベから出てきて、カベの中へと消えていった。驚いたのび太は、次の日ドラえもんにその事を伝える。しかし、ドラえもんはのび太の話をポーッとしてまるで聞かない。


 最近、のび太の家では変なことばかりが起こる。家のカベに落書きがいっぱいあったり、パパのライターなど、いろんなものが無くなったり…。


「とうとう、このへんにもあらわれたか。」


 とつぶやくドラえもん。そんな中、ドラえもんの座っている横のカベから子供がでてきて、おやつのドラやきをヒョイと取り、子供は再びカベの中へ消えていった。それを見てのび太はビックリ仰天。


「お、おいっ、み、み、見たか今の?」


 ドラえもんは相変わらずボンヤリした表情で


「あ、うん……。」


「あ、うん? 言うことはそれだけ?」


と困惑するのび太。


「のび太くん!!」


 ドラえもんが突然叫んだ。


「もしも、もしもぼくがいなくなっても、きみひとりで、やっていけるかい?」


「そんなこと、考えられないね。きみがいなくちゃ、ぼくはだめなんだ。」


とのび太。


「なさけないこと言うなよ。じつは…」


……とドラえもんが話を切り出したその時、またカベの中から何人かの人間が出てきた。


「まっぴるまからこんなとこへ。ひと目につかないように回るのが規則だぞ!」


とドラえもん。状況の掴めないのび太。


「だれだい、この人」


とドラえもんに尋ねると、


「しつれいしました。私はこういう者で」


 先頭の男が名刺を差し出した。


<<フジヤマ時間旅行株式会社/一級ガイド カバキチ・カバタ>>


 つまりこの人達は、未来の世界から昔の世界を見物するためにやってきた時間観光旅行の人らしい。


「みなさま、これが古代日本の民家です。ご自由にごらんください」


とカバタが言うと、ドヤドヤと未来からの観光客がやってきて、のび太の家を荒らしはじめた。


「めいわくだ!かえってよ!」


と叫ぶドラえもんとのび太。


 しかし、観光客一行はのび太の家に記念の落書きをしたり、パパの服をお金で勝手に持ち帰ったり、のび太の部屋のノートを勝手に見たり…と迷惑三昧を繰り返す。ドラえもんとのび太は、のび太の家から観光客一行をおっぱらおうとするが、観光客は四次元移動で動いているのでカベの中に逃げ込んで上手く追っぱらえない。


 すると、しまいにはのび太の家にピストルを持った未来の全世界指名手配の殺し屋までやってきた。タイムパトロールに追いつめられ、この世界に逃げてきたという。


「こうなったら、きさまらをみな殺しに……」


と男が言った瞬間、タイムパトロールがやってきて、バズン!と銃でこの男をやっつけた。


 そして観光客は皆帰り、ようやくのび太の家は静かになった。


「やっとしずかになったよ」


とドラえもん。


「時間観光旅行なんてめいわくだァ。なんとかしろ」


とのび太。するとその時、セワシがのび太の机の中からやってきた。


「それはもう心配いらないよ」と言う。


 セワシの話によると、「時間旅行規制法」という法律が、未来の世界で決まったらしい。さっきの観光客のようにタイムマシンで旅行する人が増えてきて、昔の人に迷惑をかけることが多くなったので、今後一切の時間旅行が禁止されることになったのだ。もちろん、ドラえもんも未来の世界に帰らなければならない。


「そ、そんな!! いやだ! ぼくは帰さないぞ!!」


と叫ぶのび太。 それに対し、ドラえもんは


「男だろ!これからは一人でやってくんだ。君ならやれる!!」


と励ました。


ドラえもん「ぼくが来たころからみると、ずっとましになっているからね」


セワシ「そう、元気になったし、からだも強くなった。頭もすこーし、よくなった。」


 するとその時、のび太の机の引き出しからプオ〜、プオ〜という音が鳴り響いた。ひきあげの合図だ。


「いそがないと」とセワシ。


「じゃ…。」


とガッチリ握手するドラえもんとのび太。


 ドラえもんはセワシに連れられ、机の引き出しの中に入ると泣き叫んだ。


「嫌だァ。のび太くんと別れるの嫌だあ」


「ドラえもん!!」


 セワシとドラえもんは、机の引き出しの中に消えていった。


 のび太は机の引き出しをながめながら、「ドラえもん…」とつぶやく。


 ラスト、のび太のモノローグ。


「机の引き出しは、ただの引き出しに戻りました。でも……、僕は開けるたびにドラえもんを思い出すのです。」




1971年2月の作品




    







■ 最終回 原作2


「ドラえもん!いつものようになんか出して、ちょちょっとたすけてよ。」


 のび太はいつもの調子で自分の部屋のドアを開けると、そこにはドラえもんだけでなくセワシもいた。セワシはのび太に言う。


「じつはね、そろそろドラえもんを……。」


「まった!ぼくからあとでいう」


とセワシの言葉を制するドラえもん。セワシは「きっとだぜ」というセリフを残して、タイムマシンで未来へ帰っていった。


 妙にしょんぼりした表情のドラえもん。のび太は「どうしたんだい」と一応は気遣うが、いつもの調子で


「友だちとあしたサイクリングに行くことになったんだ。実はぼく自転車にのれないの。なんとかしてよ」


と甘えると、ドラえもんは大声で怒鳴りだした。


「どうにもならないね!どうしてそう人にばかりたよるんだっ!ぐずぐずいってるひまに、練習したらどうだっ!!」


 びっくりして、慌てて部屋を飛び出すのび太。


「へんなの。ばかにきげんが悪いや。大丈夫。いざとなればきっとなんとかしてくれるさ。いつもそうなんだ。」


 そう呟くのび太を陰で見ていたドラえもんは


「まるっきりぼくにたよってる。やっぱりこれじゃだめだ。」


とのび太に対して不安な気持ちを抱く。


「よし!!心を鬼にして言おう!!」


 そう決意したドラえもんはのび太のところへ走るが、のび太も同時にドラ焼きを持ってドラえもんのところへ走り込んできた。ドラえもんの表情は一転して「どらやき!!」とよだれをたらす。


のび太「きみ、すきだろ。ぼくのぶんも食べていいよ。」


ドラえもん「わるいなあ」


のび太「いやいや、ふだんお世話になっているからおやつくらい。もし、この世に君がいなかったらと思うとぞっとするよ。とてもぼくなんか生きていけないな。」


 それを聞き


「と、とてもいえない、みらいの世界へ帰るなんて…。」


と陰で涙を流すドラえもん。ドラえもんがそばにいると、のび太は頼り癖がついてダメな人間になってしまう。それで、ドラえもんは未来の世界へ帰ることになったのだ。


 そこでドラえもんはセワシと相談して、ある策略を練る。ドラえもんが壊れそうなふりをして、修理のために未来の世界へ帰るという事にすれば、のび太も納得するのではないか、と。早速、


「くるしい、死にそうだあ!!」


と壊れたふりをするドラえもん。それを見たのび太は


「ドラえもん、壊れちゃいやだ。」


とドラえもんに泣きつく。そしてセワシに


「未来へつれてって、なんとか直してやって!!」


とお願いした。そこでドラえもんは


「だけどぼくがいっちゃったら困るんじゃない?」


とのび太に言うと、のび太は言った。


「困るにきまってらい、でもきみが元気になるためなら、どんながまんでもするよ。」


 そののび太の言葉を聞いたドラえもんは感激で大泣きし、のび太に「こわれそうというのはうそだ」と打ち明ける。のび太に自分の力で何でもできる強い人になってほしい、それで未来の世界に帰るんだということを、正直にのび太に説明した。するとのび太は、


「わかった。ほんとにそのとおりだと思う。やってみるよ。ぼくひとりで、自信はないけどがんばるよ」


とドラえもんに言った。ドラえもんがいなくても頑張るという決意を見せたのだ。


のび太「きみのことわすれないよ。」


ドラえもん「ぼ、ぼくだって……ククク。」


セワシ「さようならあ。」


 ドラえもんとセワシは未来の世界へ帰っていった。


 ドラえもんが帰った後、のび太は自転車の練習をはじめる。フラフラした運転に何度も転び、アザだらけの姿にのび太のママは


「むりしないでやめたら?」


と言うがのび太は言った。


「だ、だいじょうぶ……イテテテ。ドラえもんとやくそくしたんだ。」


 その様子を未来の世界から見守り、応援するドラえもんとセワシ。


「がんばれ、がんばれ!タイムテレビでおうえんしてるぞ!!」




1972年2月の作品




    







■ 最終回 原作3


 ジャイアンに追われ、何とか命からがら家に逃げ帰ってきたのび太。のび太はドラえもんに言う。


「あれ貸してよ。ほら、いつか使ったやつ。けんかに強くなるの」


 しかし、ドラえもんは冷たく言い放った。


「ひとりでできないけんかならするな!」


 ドラえもんの表情は、妙に沈んでいる。


「おい、どうしたんだよドラえもん」


と、のび太が気にかけると、ドラえもんは打ち明けた。


「こないだから………言おう言おうと思ってたが……」


「帰る? 未来の世界へ!?」 


 明日の朝、なんとドラえもんが未来の世界へ帰ってしまうという。のび太は仰天して「なんとかして」と泣きつくが、そんなのび太にママとパパは言った。


ママ「ドラちゃんにはドラちゃんの都合があるのよ。わがまま言わないで」


パパ「人にたよってばかりいてはいつまでたっても一人前にはなれんぞ。男らしくあきらめろ」


 その晩、のび太はドラえもんといっしょの布団に入って寝る。しかし、のび太もドラえもんもどうしても眠れない。そこでドラえもんとのび太は、


「朝までお話しよう」


と、“眠らなくても疲れない薬”を飲んで、いっしょに外へ散歩に行くことにした。


 外はお月さまがきれいだ。ドラえもんは言う。


「のび太くん……本当にだいじょうぶかい?」


「何が?」


とのび太。


「できることなら……帰りたくないんだ。きみのことが心配で心配で……。ひとりで宿題やれる?ジャイアンやスネ夫に意地悪されてもやり返してやれる?」


 心配するドラえもんに、のび太は答えた。


「ばかにすんな!ひとりでちゃんとやれるよ。約束する!」


 その言葉を聞き、ホロリとするドラえもん。ドラえもんはのび太に涙を見せまいと、


「ちょ、ちょっとそのへんを散歩してくる……」


と言って走り去った。


「涙を見せたくなかったんだな。いいやつだなあ」


 ひとりになったのび太は、いつもの空き地の土管に腰掛けた。すると、そこに眠りながらフラフラと空き地の前を通っていく男の姿があった。ジャイアンだ。ジャイアンは、ときどき寝ぼけて夜中に散歩をするくせがある。


 …とその時、ジャイアンはハッと目を覚ました。


「だれだっ。そこでにやにやしてるのは!なんだのび太か。おれが寝ぼけてるところをよくも見たな。許せねえ!」


 ジャイアンはのび太の胸ぐらをつかむと、思わずのび太は叫んだ。


「わあっ、ドラ………」


 しかし、ここでドラえもんを呼ぶわけにはいかない。のび太は口に手を当てた。のび太はジャイアンに言った。


「けんかならドラえもんぬきでやろう」


「ほほう……えらいな、おまえ。そうこなくっちゃ」


 ジャイアンはボカッと一発、のび太を殴る。完全に吹っ飛ぶのび太。


 一方、ドラえもんは、さっきのび太に助けを呼ばれたような気がしてならない。心配になったドラえもんは、町中を走り回ってのび太を探すが、見つからない。先に帰ったのかなと思って家に帰ってみたが、やはりのび太はいなかった。


 空き地では、ジャイアンはのび太を殴り続けていた。ボロボロになって完全にのびてしまったのび太。


「どんなもんだい。二度とおれにさからうな」


 しかし、のび太はしつこくムクッと起きあがり、ジャイアンに言った。


「待て!まだ負けないぞ」


「なんだおまえ。まだなぐられたりないのか」


「何を。勝負はこれからだ」


 さらにガツンと殴られるのび太。


 ドラえもんは、家でのび太の帰りを待っていた。しかし、まだ帰ってこない。あれから既に一時間もたっている。


「どこで何してんだ。最後の晩まで人に心配かけて」


とドラえもんはのび太のことが気が気でならなかった。


 さらにジャイアンはのび太を殴り続け、再びのび太はダウンする。ジャイアンは息を切らしながらのび太に言った。


「ふう、ふう。これでこりたか。何度やっても同じことだぞ。はあ、はあ、いいかげんにあきらめろ」


 帰ろうとするジャイアン。しかし、のび太は最後の力でジャイアンの足にしがみついて言った。


「ぼくだけの力できみに勝たないと……ドラえもんが……安心して……帰れないんだ!」


「知ったことか!」


 更にのび太をぶん殴るジャイアン。


 その時、ドラえもんは、まだ家でのび太の帰りを待っていた。しかし、のび太は帰ってこない。


「ただごとじゃないよ、こりゃ」


と不安になったドラえもんは、再び外へのび太を探しに行った。


 すると……空き地に、ボロボロになりながらジャイアンと戦っているのび太の姿があった。のび太は帰ろうとするジャイアンをしつこくつねっている。


「いてて、やめろってば。悪かったおれの負けだ。許せ」


 ジャイアンは逃げ帰った。ドラえもんは、のび太にかけよった。のび太は全身アザだらけの姿でドラえもんに言う。


「勝ったよ、ぼく」


 のび太は、ドラえもんの肩に抱かれながら言った。


「見たろ、ドラえもん。勝ったんだよ。ぼくひとりで。もう安心して帰れるだろドラえもん」


 家に帰り、布団に入って寝るのび太。そしてその寝顔を、涙を流しながら見つめるドラえもん。


 翌朝、のび太が目を覚ますと、すでにそこにはもうドラえもんの姿は無かった。


ママ「ドラちゃんは帰ったの?」


のび太「うん」


 ガランとしてしまった自分の部屋で独り、座りながらのび太はつぶやく。


「ドラえもん きみが帰ったら部屋ががらんとしちゃったよ。でも……すぐになれると思う。だから………心配するなよドラえもん」




1974年2月の作品




    







■ 最終回 創作1


「のび太!いつまで寝ているの!早く起きなさい」


 お母さんの声が聞こえました。のび太は布団の中でもぞもぞ、眼をさましました。


「今日は日曜日だよー」


 まだ眠そうに眼をこすりながら、のび太は押入の方を見やりました。襖が開きドラえもんが眼をこすりながら、


「ふぁー、ねむいよ」


と言いました。お母さんが
「何言ってるの!もう9時ですよ!あなた達、今日9時に何か約束があったんじゃないの?」


「あっ、そうだ!のび太くん、早くおきなくっちゃ」


 のび太は、まだ寝むそうに布団の中でゴソゴソ・・・。


「のび太くん!!のび太くん!!!」


「うるさいなー」


「もう知らないからね!今日、ジャイアン達と約束あったんじゃないの?」


 急にのび太は布団から飛び起きました。


「あーーーー。どうしようーーー。ドラえもんのばか!!!どうして早く起こしてくれなかったんだよーー」


「あきれた」


 のび太は、いち早く起きて顔も洗わず家を飛び出しました。いつも通りの、のび太の日曜日が始まりました。いつもの公園に着くと、ジャイアンとスネオとしずかちゃんが待っていました。ジャイアンは不機嫌そうに腕を組みながら待っていました。


「のび太!・・遅刻じゃないかよ」


 げんこつを振り上げて言いました。


「ごめん、ごめん」


 しずかちゃんと、スネオが言いました。


「いいじゃない、私たちも今来たところなのよ」


「今日は、特別な日だからゆるしてやろうよ」


「そうか、じゃゆるしてやるか」


とジャイアン・・・。今日は、みんなのルーツをたどる日なのです。


「俺の生まれた時は、かわいかったんだろうなあ」


 ジャイアンが言いました。スネオが小声で


「ごりらの子供みたいじゃないの」


「なんだよ、聞こえたぞ」ゴツ!


「まず、しずかちゃんからいこう!」


「ドラえもん出して!」


「ルーツ探検機!!・・・・」


 これは探検したい人に近づけると、その人の生まれた時から、今現在までを早回しで探索出来る機械なのです。


「オギャー、オギャー」


 しずかちゃんが生まれた瞬間です。


「かわいい」


「しずかちゃんって、生まれた時からかわいいんだね」


「はずかしい、みないで」


 しずかちゃんが自分の顔を手でふさいでいいました。生まれたばかりなので、素裸だったからです。しずかちゃんの10年間が終わり次はジャイアンの番です。


「オギャー、オギャー」


「はははーーー」


 のび太もスネオもしずかちゃんも笑いました。ごりらの子供そっくりだからです。


「なんで 笑うんだよ」ゴツ!


 今度はのび太が殴られました。


「しかたないだろ、そっくりなんだも・・・」


「ばかやろ。次は、スネオの番だ。ドラえもん、早くしろよ」


「わかった わかった」


と言ってドラえもんは、スネオに機械を近づけました。


「オギャー、オギャー」


「はははーーーーー」


 みんな笑いました。


「なんで笑うんだよ」


 ゴツ!スネオがジャイアンに殴られました。


「なんでジャイアンに殴られなければ、いけないんだよ!?」


 涙目でスネオが言いました。


「キツネの子供みたいでおもしろすぎなんだよ」


「そんなーー」


 スネオはお母さんに、あまやかされ、何でも買ってもらっている10年間でした。そのたびにジャイアンに殴られていました。


「こんなのあるかよ。見なきゃよかった」


 さあ次はのび太の番です。ドラえもんが言いました。


「のび太くん、知らないよ」


「いいもん! ぼくはうらやましがられる事、何もないから」


 ドラえもんは、のび太くんに機械を近づけました。


「オギャー、オギャー」


「はははーーーーー」


 みんな笑いました。


「なんだよーーー」


 のび太は言いました。やがて、のび太の10年は終わりました。


「あれ」


 みんなが言いました。


「なんでのび太の時、いったん真っ黒になったんだ?」


「そういえば、そうだね」


「ドラえもん、どうして?」


 のび太はドラえもんに聞きました。ドラえもんは、急にそわそわして、


「いいの!それは」


と言いました。みんなは


「どうして!どうして!」


としつこく聞きました。ジャイアンが言いました。


「あ!わかった、のび太が寝小便たれたんだ、だからドラえもんがわざと隠したんだ」


「ちがうよー、ドラえもんちがうよね」


 ドラえもんは


「ちがうよ。ちがうよ」


と言いました。


「それじゃ、みせろよ」


 ジャイアンとスネオが言いました。あまりのしつこさにドラえもんが言いました。


「ちがうよ。これはのび太くんと僕の秘密なんだ。みんなには見せられないんだ。これを見せれば僕とのび太くんがもう会えなくなって、しまうんだ」


 そんな秘密があるなんて今まで知らなかったのび太は言いました。


「そんなの聞いてないよ」


 しずかちゃんが言いました。


「会えなくなるのなら、私たちだって困るから、見るのやめようよ」


 でも、のび太はしつこく言いました。


「僕のつごう悪い事なの?」


「いや、そうじゃないけど」


「じゃ、見せてよ。ドラえもんのばか!今みせてくれなきゃ、一生ジャイアンに言われてしまうじゃないか、ドラえもんなんか嫌いだ!もうドラえもんなんかいなくていい」


 泣きながらのび太は言い続けました。ドラえもんは悲しい顔で言いました。


「そうだね、のび太くんにとって、良いことなんだからね。本当に見たい?本当に見たい?」


 何度も繰り返し言いました。


「僕に良いことだったら見たいに決まってるじゃないか!!」


「会えなくなってもいいから見させてよ」


 のび太は言いました。のび太は、見てもドラえもんに会えないはずは無いと信じていたのです。


「・・・ん・・・本当にいいんだね」


「いいよ」


「わかった見よう」


 ドラえもんはもう一度、のび太の体に機械をつけようとしました。


「本当に、いいんだね、いいんだね」


 ドラえもんは何度も言いました。


「ドラえもん、しつこいよ」


とのび太が言いました。


「ドラえもんしつこいぞ」


「ドラえもんしつこいよ」


 ジャイアンもスネオも言いました。しずかちゃんがいいました。


「のび太さん、本当にいいの?」


「いいんだよ」


 のび太がそう言うと、ドラえもんはのび太の体に機械をつけました。そのとき、近くの交差点のブロック塀の陰から、のび太のお母さんとお父さんがのぞいているのが、のび太の眼にうつりました。


 お父さんとお母さんは何か言っているように、のび太には感じました。


「ドラちゃん・・今まで ありがとう・・・・・・・」


 のび太には、いやな予感がしました。


「やめよう。いままでどうりでいいよ。ばかにされてもいいよ、やめよう」


 ドラえもんは言いました。


「のび太くん遅いよ、のび太くんもう遅いよ」


 ドラえもんの眼から、大粒の涙がこぼれていました。その涙は止まる事はありません。


「さようなら、さようなら、さようなら」


 のび太の眼からも、訳がわからず涙がこぼれ落ちました。


「やだよーーーー。やだよーーーー。やだよーーーー」


 ドラえもんの姿がどんどん薄くなっていきました。のび太は流れる涙のせいだと思いました。


「アーーードラちゃんが消えていく」


 しずかちゃんが叫びました。


「ほんとうだ、ドラえもんが消えていく」


「ドラえもんーーーー」


「ドラえもんーーーー」


 ジャイアンとスネオも叫びました。のび太は


「やだよーーードラえもん!やだよーーードラえもん!やだよーーードラえもん!やだよーーードラえもん!」


と言い続けていました。


 真っ黒い空白の一日がみえ始めました。真っ青に晴れた、せみの鳴く普通の一日です。


「いってきますー」


 のび太が元気に学校に出かける風景です。あいかわらず分厚いめがねにパットしない顔の野比のび太は、大好きなねこ型ロボットのおもちゃを鞄に入れて出かけました。あいかわらず朝寝坊ののび太は、


「今日も、遅刻だよ」


と言って走って出かけました。口には朝ご飯のパンをくわえて。玄関でお母さんが


「のび太―ー、気をつけて 行きなさいよ!」


「わかってるって・・・」


 ちょうど交差点を曲がろうとしたとき、猛スピードでダンプカーがきました。あっというまに、のび太はダンプカーに、はねられてしまいました。


 救急車で運ばれたのび太は危篤状態でした。体が“ピクリ”ともしません。周りでは病院の先生たちが、一生懸命手当をしていました。


 廊下で、学校の先生、のび太の、お母さん、お父さん、スネオ、ジャイアン、しずかちゃん、みんな心配そうにしています。お父さんとお母さんは泣いていました。ベットに横たわるのび太の手には大好きなねこ型ロボットがしっかりと握りしめられていました。


 のび太がゆっくりと眼をさましました。


「ドラえもんは?」


 のび太はよわよわしい声で言いました。最初に見えたのは、二人のおじさんと一人のおばさんでした。それとなにやら入り口の方で泣いているおじいさんとおばあさんでした。一人のおじさんが言いました。


「のび太―ー」


 おばさんが言いました。


「のび太さんーーー」


 のび太は怪訝そうに言いました。どことなく二人のおじさんは、ジャイアンとスネオに似ていたからです。もう一人のおばさんは、しずかちゃん。入り口の横で泣いているおじいさんとおばあさんは、お母さんとお父さんに、似ていたからです。のび太は言いました。


「どうしたの?僕は、あなたは?」


「のび太、俺だよ。ジャイアンとスネオだよ。しずかちゃんもいるよ。そして、お母さんとお父さんだろ、そうだよな、おまえは、あの事故以来25年もたったからな。おまえは、交通事故でダンプカ―にぶつかって植物人間になってしまって、あれ以来すっと寝っぱなしだったからな。俺たちはもう35歳になったよ、俺(ジャイアン)は結婚して子供も二人いるよ。かわいいぜ」


 スネオが言った。


「僕も、結婚して子供は一人いるよ」


 何がなんだか分からなかったのび太はだんだん、その状況を分かってきた。


「ドラえもんは?」


 しずかちゃんが言った。


「のび太さん、今、握りしめているそのねこ型ロボットの事?そのロボット、“ドラえもん”って言うの?」


 そばで、お母さんとお父さんが叫んだ。


「のび太、よく戻って来てくれたな!」


 のび太は言った。


「ドラえもんが、ドラえもんが・・・・・」


「なんだか、分からないけどおまえのドラえもんが、おまえを生きかえらせてくれたのか」


 のび太はやっと分かりかけてきた。どうりで何年たっても小学生から成長しなかった訳だ。


「僕はいったい何歳なんだ。そうか、ジャイアン、スネオと一緒だから35歳なんだ。お母さん、歳をとったね。お父さん、心配かけたね、白髪だらけになって・・・・でも僕は楽しかったよ」


 横からしずかちゃんがいった。


「あなた、本当にお帰りなさい、これから二人で幸せになろうね」


「え・・・・」


「のび太さんとは、10年前に結婚したの。あなたが必ず眼をさますことを信じて、10年前に私は天の声を聞いて。そして、のび太さんと結婚する夢をみたわ。天の声は変な丸い顔をした、たぬきみたいな、動物なの、その動物を信じてみようと思ったの。」


 空はいつものとうり、真っ青な晴天で、ベットの周りからは笑い声がしはじめた。手に握りしめた、ネコ型ロボットは25年もたってうすよごれていたけど、なぜかいつものドラえもんのようなやさしい顔をして、のび太に話かけているようだった。


「のび太くん・・・・・勉強しなきゃだめじゃないか」


 のび太は誰にも聞こえないような小声で言いました。


「ありがとう・・・ドラえもん」




    







■ 最終回 創作2


 のび太とドラえもんに別れの時が訪れます。それは、なんともあっさりと...。


 のび太はいつものように、宿題をせずに学校で叱られたり、はたまたジャイアンにいじめられたり、時にはスネ夫の自慢話を聞かされたり、未来のお嫁さんであるはずのしずかちゃんが出来杉との約束を優先してしまう、などなどと、とまあ、小学生にとってはそれがすべての世界であり、一番パターン化されてますが、ママに叱られたのかもしれません。とにかく、いつものように、あの雲が青い空に浮かんでいた、天気のいい日であることは間違いないことでしょう。そんないつもの風景で、ドラえもんが動かなくなっていました...。


 当然、のび太にはその理由は分かりません。喋りかけたり、叩いたり、蹴ったり、しっぽを引っ張ってみたりもしたでしょう。なんの反応も示さないドラえもんを見てのび太はだんだん不安になってしまいます。付き合いも長く、そして固い友情で結ばれている彼ら。そしてのび太には動かなくなったドラえもんがどういう状態にあるのか、小学生ながらに理解するのです。その晩、のび太は枕を濡らします。


 ちょこんと柱を背にして座っているドラえもん...。


 のび太は眠りにつくことができません。泣き疲れて、ただぼんやりしています。無駄と分かりつつ、いろんなことをしました。できうることのすべてをやったのでしょう。それでも何の反応も示さないドラえもん、泣くことをやめ、何かしらの反応をただただ、だまって見つめ続ける少年のび太。当然ですがポケットに手を入れてみたり、スペアポケットなんてのもありましたが動作しないのです。


 そして、なんで今まで気付かなかったのか、のび太の引き出し、そう、タイムマシンの存在に気がつくのです。ろくすっぽ着替えず、のび太はパジャマのまま、22世紀へとタイムマシンに乗り込みます。


 これですべてが解決するはずが...。


 のび太は、なんとかドラミちゃんに連絡を取り付けました。しかし、のび太はドラミちゃんでもどうにもならない問題が発生していることに、この時点では気が付いていませんでした。いえ、ドラミちゃんでさえも思いもしなかったことでしょう。


「ドラえもんが治る!」


 のび太はうれしかったでしょう。せかすのび太と、状況を完全には把握できないドラミちゃんは、ともにかくにも20世紀へ。


 しかしこの後に人生最大の落胆をすることになってしまうのです。動かないお兄ちゃんを見て、ドラミちゃんはすぐにお兄ちゃんの故障の原因がわかりました。正確には、故障ではなく電池切れでした。そして電池を交換する、その時、ドラミちゃんはその問題に気が付きました。


 予備電源がない...。


 のび太には、なんのことか分かりません。早く早くとせがむのび太に、ドラミちゃんは静かにのび太に伝えます。


「のび太さん、お兄ちゃんとの思い出が消えちゃってもいい?」


 当然、のび太は理解できません。なんと、旧式ネコ型ロボットの耳には電池交換時の予備電源が内蔵されており、電池交換時にデータを保持しておく役割があったのです。そして、そうです、ドラえもんには耳がない...。


 のび太もやっと理解しました。そして、ドラえもんとの思い出が甦ってきました。初めてドラえもんに会った日、数々の未来道具、過去へ行ったり、未来に行ったり、恐竜を育てたり、海底で遊んだり、宇宙で戦争もしました。鏡の世界にも行きました。どれも映画になりそうなくらいの思い出です。


 ある決断を迫られます。


 ドラミちゃんは、いろいろ説明をしました。ややこしい規約でのび太は理解に苦しみましたが、電池を交換することでドラえもん自身はのび太との思い出が消えてしまうこと、今のままの状態ではデータは消えないこと、ドラえもんの設計者は、設計者の意向で明かされていない(超重要極秘事項)ので連絡して助けてもらうことは不可能であるという、これはとっても不思議で特異な規約でありました。


 ただ修理及び改造は自由であることもこの規約に記されていました。


 のび太、人生最大の決断をします。


 のび太はドラミちゃんにお礼を言います。そして


「ドラえもんは、このままでいい。」


と一言、告げるのです。ドラミちゃんは後ろ髪ひかれる想いですが、何も言わずにタイムマシンに乗り、去っていきました。のび太、小学6年生の秋でした。


あれから、数年後...。


 のび太の何か大きく謎めいた魅力、そしてとても力強い意志、どこか淋しげな目、眼鏡をさわるしぐさ、黄色のシャツと紺色の短パン、しずかちゃんが惚れるのに時間は要りませんでした。外国留学から帰国した青年のび太は、最先端の技術をもつ企業に就職し、そしてまた、めでたくしずかちゃんと結婚しました。そして、それはそれはとても暖かな家庭を築いていきました。ドラミちゃんが去ってから、のび太はドラえもんは未来に帰ったとみんなに告げていました。そしていつしか、誰も「ドラえもん」のことは口にしなくなっていました。しかし、のび太の家の押入には「ドラえもん」が眠っています。あの時のまま...。


 のび太は技術者として、今、「ドラえもん」の前にいるのです。


 小学生の頃、成績が悪かったのび太ですが、彼なりに必死に勉強しました。そして中学、高校、大学と進学し、かつ確実に力をつけていきました。企業でも順調に、ある程度の成功もしました。そしてもっとも権威のある大学に招かれるチャンスがあり、のび太はそれを見事にパスしていきます。そうです、「ドラえもん」を治したい、その一心でした。人間とはある時、突然変わるものなのです。


 それがのび太にとっては「ドラえもんの電池切れ」だったのです。修理が可能であるならば、それが小学6年生ののび太の原動力となったようでした。自宅の研究室にて...。


 あれからどれくらいの時間が経ったのでしょう。しずかちゃんが研究室に呼ばれました。絶対に入ることを禁じていた研究室でした。中に入ると夫であるのび太は微笑んでいました。そして机の上にあるそれをみて、しずかちゃんは言いました。


「ドラちゃん....?」


 のび太は言いました。


「しずか、こっちに来てごらん。今、ドラえもんのスイッチを入れるから」


 頬をつたうひとすじの涙...。


 しずかちゃんはだまって、のび太の顔を見ています。この瞬間のため、まさにこのためにのび太は技術者になったのでした。なぜだか失敗の不安はありませんでした。こんなに落ち着いているのが変だと思うくらいのび太は、静かに、静かに、そして丁寧に、何かを確認するようにスイッチを入れました。


 ほんの少しの静寂の後、長い長い時が繋がりました。


『のび太くん、宿題は済んだのかい?』

 ドラえもんの設計者が謎であった理由が、明らかになった瞬間でもありました。


 あの時と同じように、空には白い雲が浮かんでいました。




    







■ 最終回 創作3




第1章 出来事



 それは、子供達が心おどる正月の出来事だった。


「のび太さぁ〜ん。羽子板で一緒に遊びましょうよ。」


「うん。やろうやろう。」


 しかし運動音痴なのび太は、あっという間に真っ黒な墨だらけの顔になった。


「よ〜し。今度は負けないぞ。」


「え〜い。」


 のび太が打ち上げた羽は、とんでもない方向へ飛んでいき、大きな木のてっぺんに引っかかってしまった。


「ごめ〜ん。僕取ってくるよ。」


「あんな木に昇るとあぶないわ。あきらめましょうよ、のび太さん。」


「だいじょぶだよ。」


 そういうと、少しは頼りになる所を見せたかったのか、のび太は大きな木をのぼり始めた。


「のび太さん、降りてきて〜。危なくてみてられないわ〜。」


 上に昇れば昇るほど、足をかける枝は細くなる。その時である。


 バキッ!!!


 乾いた枝が折れる音とともにのび太が落ちた。


「きゃ〜〜〜〜〜ぁぁぁぁぁぁぁ。」


 ドスン!鈍い音がした。


 この木はどれぐらいの高さなのだろう。何メートルあるかはわからないが、のび太としずかにはとても大きな木に見えた。




第2章 告白



「のびちゃん!のびちゃん!」


「のび太!おい、のび太!」


「のび太くん!のび太くん!」


「のび太さん!のび太さん!」


ここは私立病院。不幸な事にのび太は頭から落下し、意識を失っていた。


 ママ、パパ、ドラえもん、しずかが、涙を流し、必死にのび太に話かけている。連絡を受け、ジァイアン、スネオも駆けつけた。


「おばさん。のび太はだいじょうぶなんですか?」


「うぅぅぅうぅぅぅ。」


 ママはその場に崩れ座り込んだ。


「手術をしなければ、このまま……、ずぅ〜っと このまま、のびちゃんは、このまま……、植物人間のようになってしまうんだって……。」


「じぁあ、手術をしてのび太を助けてよ。」


「…………………………………。」


「失敗すれば、死んじゃうかもしれないの………。」


「うぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅ。」


「おい。ドラえもん!!!!いつものように何とかしろよ!タイムマシンだとかなんかあんだろ!」


「そうだ!そうだ!何とかしろっ!」


「…………できないんだ………。」


 ドラえもんの脳の中に「生命救助」に関する禁止事項プログラムがある。そのプログラムの中の111059841行目に、このような命令がある。


−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
歴史を壊す可能性大。生命を直接的に救助する事を禁ず。
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−


 この事実をドラえもんはみんなに告白した。


「この役立たずロボット!」


「お前なんか未来へ帰れ!」


「みんなごめん………。僕はのび太くんの為に未来から来たのに……。」


 ボカッボカッ!!!ジァイアンはドラえもんを殴った。


「うぅぅぅぅぅぅぅぅ。ごめん……。」


 ボカッボカッ!!!今度はドラえもんが自分で自分を殴りつけた。


「たけしさん!ドラちゃん!もうやめて!私が悪いのよ。私が一緒に羽子板遊びなんてしなければ……。」


 しずかは自分を責めた。


「いいえ。みんなのせいじゃないわ……。」


 ママの声が、みんなに届いたかどうかは定かではない。




第3章 未来へ



 それから1週間。のび太の意識はいっこうに戻らない。


「先生。手術の成功率はどのくらいなのですか?」


「………いままでの成功例から言いますと、20パーセント以下です。」


「……………」


「でも、このまま何もしなければ、のびちゃんは………。」


 手術をしなければ、のび太は生命すら危険な状態であった。


 しかし、手術の成功率は絶望的に低い上、手術にかかる多額の費用も野比家にはあるはずもなかった。


「20パーセントでも、助かる確率があるなら、手術して、のび太くんを助けましょうよ。」


 出来杉が、ママに言った。


「僕、クラスのみんなにカンパを呼びかけます。」


「よし、出来杉!そうしようぜ。」


 ママの目にまた涙がこみ上げた。しかし、いままでの涙とは違う別の涙だ。みんなに、こんなに愛されているのび太……。ママはのび太を産んで本当に良かった。そう思った。そう思ったら、涙があふれた。


 数日後。もう決断しなくては、のび太の命が危ない。出来杉や、ジャイアン達が集めてくれたカンパも、微々たるものだった。成功率は低いが手術をしなくては、のび太は助からない。しかしそんなお金はどこにもない。


「だめか………。」


「パパ!そんな事言わないで!うううぅぅぅぅぅ。」


「すまない。ママ……」


 ママとパパは我が子の為には命さえ、惜しくないと思った。しかし何もしてあげられない自分達に、無性に腹が立った。


「ママ、パパ、お金は僕が何とかするよ。僕はのび太くんの為に未来からここに来たんだ。絶対にのび太くんを助けてみせる。」


「ドラちゃん……………。」


 ドラえもんはそう言い残すと家に帰り、引き出しの中のタイムマシンで未来へ戻った。




第4章 急げ!



 ドラえもんは21世紀に帰ると、真っ先にリサイクルショップへ向かった。


「いらっしゃ〜い。」


 無愛想なロボットの店員が、ドラえもんを迎えた。


「これ全部売りたいんだ。」


「全部????」


「そう。全部だ。」


「本当にいいんですね?」


「はやくしろっ!」


 ドラえもんは何と、4次元ポケットの中の道具を全部売り払ってしまった。額にすると、どこかの惑星を1つまるごと買えるぐらいの金額だ。


「ありがとうございました。2.68秒後に、あなたの電子マネーの口座に全額振り込まれます。」


「またのお越しをおまちしております。」


 それを聞かない内に、ドラえもんは店を飛び出していた。


 のび太くんを絶対に助けてみせる………。ドラえもんの頭は、その事でいっぱいだった。オーバーヒート寸前だ。いや、もうすでにドラえもんの内蔵コンピューターは、おかしくなっていたのかもしれない……。


 ドラえもんは次に、宝石博物館へ向かった。


 この時代、ほとんどの宝石は人工的に作られて、天然の宝石は、莫大な金を積まなければ、手に入れる事は出来なかった。


「いらっしゃいませ」


 人間女性型ロボットが迎える。


「ご見学ですか?」


「いや。」


「天然のダイヤで一番大きいのください。」


「少々お待ちください。」


 女性ロボットはそう言うと、奥のスタッフルームへ入っていった。数分後、10人のガードマンロボットを引き連れ、館長らしき人が出てきた。


「あなたですか?天然の一番大きいダイヤをほしいというお客様は。」


「そうです。売ってください。」


「本気ですか?とてもあなたのような方が買える代物ではありませんよ。」


 館長は明かにドラえもんの事をバカにしていた。


「お金ならあります。見て下さい。」


 そう言うと、ドラえもんはマネーカードのバランスボタンを押し、残高を館長に見せつけた。


「お、…おおおおお……」


「す、すいませんでした。どこぞの大富豪様だとは……。今すぐ、そのダイヤをお見せいたしましょう。」


 全く、現金なものだ。商人あがりの人はいつもこうである。


 館長は奥の金庫から大きな箱を大事そうにかかえ、再びドラえもんの前に現れた。ゆっくりとその箱を館長が開ける……。


「どお〜ですか。この輝き。すばらしいでしぉ。私のコレクションの中では最高です。」


 ばかでかいダイヤだ。その大きさはドラえもんのこぶし位ある。


「このお金全部払うから、そのダイヤをください。」


「ぜ、全額いただけるのですか?」


「そうだ。早くして。」


「はい、わかりました。」


 ドラえもんはダイヤを受け取ると、店を飛び出し、のび太くんがいる時代へとタイムマシンで再び戻った。現代で、ドラえもんはダイヤを宝石コレクターに売り、のび太の手術費を作った。


 その宝石コレクターの孫が、21世紀で先ほどドラえもんがそのダイヤを購入した宝石博物館を開く事になるとは、ドラえもんは知るよしもなかった。




第5章 「友達」だということ



「今夜が山場ですね。手術を行わなければ、命が危ないです。」


 先生がママに言った。ママはその場に崩れ倒れた。


 その時である。


 バタンッ!ドアが勢い良く開くとともに、ドラえもんが病室に飛び込んできた。


「のび太くん!」


「ドラえもん。こんな時にどこ行ってたんだよ!」


「ごめん。のび太くんの手術費を作る為に、ポケットの中身を全部売ってきたんだ……。」


「え?本当か?これでのび太は手術できるのか?」


「ママ……。このお金でのび太くんを助けてあげようよ。」


「ドラちゃん………ありがとう……。」


「先生。おねがいします。」


 迷ってる時間はない。パパは先生に手術をお願いした。


「よし。緊急手術を行う。大至急手術室へ運んで!」


 病院内に緊迫した空気が一気に張りつめた。手術室は1階のB棟だ。みんなも、意識のないのび太をのせたベットの後を追った。


「全力をつくします。」


 ドアが閉められると、手術中のランプが点灯した。


 3時間位たっただろうか…。


 ママとパパは親戚に連絡をとり、近い所に住む親戚は、もうすでに駆けつけていた。


「うおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ。」


 みんなが驚いた。ジァイアンが突如、大声を張り上げたのだ。近くの看護婦が大声の元を探して、こっちへ来た。


「ここは病院ですよ。他の患者さんも居るんですから、大声ださないでください。」


「うおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ。」


「静かにしてください。」


「のび太ががんばってるっていうのに、何もしてやらないのが友達って言えるかっっっっ!!!!」


「のび太は俺様の友達だっ!!いじめる事もあるが大事な大事な友達なんだっ!!!」


「フレ〜!フレ〜!の・び・太〜!フレッフレッのび太!フレッフレッのび太〜!」


 看護婦はジァイアンの迫力に驚いた。そしてみんなもジャイアンの後に続いた。


「がんばれ〜のび太〜!」


「のび太さん〜。絶対に負けないで〜!」


「がんばれがんばれ、のっびっ太!」


「のび太く〜ん。ファイト〜」


「野比〜負けるんじぁないぞ〜!」


 みんなの声援は館内中に響きわたった。


 看護婦はみんなののび太を思う気持ちに心を打たれたのか、それ以上無理にやめさせようとはしなかった。




第6章 不幸



 手術中のランプが消えた。8時間におよぶ、大手術だった。


「やった〜、終わったぞ。のび太は助かったんだぁ。」


「やったやった〜。」


 クラスのみんなは、抱き合って喜んだ。


 ドアから手術を終えた先生が出てきた。その白衣は赤く染まっている。


「先生っありがとなっ。」


 ジァイアンは泣きながら言ったが、先生は笑顔を見せなかった。


「……………」


「のび太くんが治る直る見込みはありません。思ったより、病状がひどく……。命をとりとめはしましたが、それが精一杯でした……。」


「え?…………」


「どういう事ですか?……」


「……………」


「命はとりとめましたが、のび太くんはこのまま意識が戻る事はありません……植物人間です………。」


「そんなっ!うそだっ!」


「嘘ですよね先生!」


「我々、この病院の名医と呼ばれる医師全員で、全力を尽くしました。」


「もうしわけございません……」


 バタッ!


「おまえっ!」


 のび太のママは気を失って、倒れてしまった。


「そんな……そんな……のび太が……のび太…が…の…び……嘘だぁぁぁぁぁ!!」


「この間まで元気だったのび太さんが…嘘よ。そんなはずないっ!」


 ダダダダダダッ


 みんな手術室に駆け込もうとした。


「いけませんっ!のび太くんは手術は終わりましたが今は危険な状態ですっ。あ、ちょっと!入ってはダメです。」


「うるせ〜!!!!!!」




最終章 さよならドラえもん 〜〜みんな友達〜〜



 忙しい1月が終わろうとしていた。


 3日間降り続いた雪もやみ、今日はお日様が燦々と輝いている。いつものように平和な1日が始まろうとしている。ただ1つ、のび太の病室を除いて・・・・・。


「のびちゃん♪学校行かないと遅刻するわよ。それにしてもかわいい寝顔だ事♪」


 ママはショックのせいでおかしくなってしまったのだろうか?毎日毎日、朝から晩まで、のび太に話しかけている。どれほど寝れない日が続いたのだろう。今ではママは、ガリガリにやせ細ってしまった。


 のび太の寝顔はまるで天使のようだ……。


 パパも会社を辞め、毎日のび太のそばにいる。ドラえもんはあれ以来、誰とも口を聞かなくなってしまった。


 ちょうど小学校が終わる時間……


「おばさ〜ん。のび太は?」


 ジャイアンを筆頭に、今日もクラスのみんながお見舞いにきた。


「あら剛くん。今日はのびちゃんまだ起きないのよぉ。しょうがない子でしょ?のびちゃ〜ん、クラスのみんなが来たわよ。ほらっ起きなさい!」


「おばさん…起こさなくていいよ。まだ寝かせてあげてよ…まだ眠いんだよ、きっと……。」


「そーお?ごめんなさいねぇ。せっかく遊びに来てくれたのに。」


「ドラえもんっ、元気だせよっ。」


「のび太は死んだ訳じぁないさ。」


「そうよ、私達の友達ののび太さんはここにいるじぁない。」


「……みん…な……。」


 ドラえもんが口を開いた。


 堰を切ったように、いままで我慢してきた涙が一気にドラえもんの目からあふれる。


「みんな……僕、のび太くん大好きだから、病院で寝たきりののび太くんを、どこかに連れていってあげたいんだ……。」


「パパ…ママ…いいでしょ?僕はのび太くんの為に未来から来たんだ……。」


「ドラえもん……。」


「ドラちゃん……。」


 そういうと、ドラえもんは空っぽのはずの4次元ポケットから、どこでもドアを取り出した。ドラえもんは、何かあった時の為にどこでもドアだけは、売らずにとっておいたのである。


 ドラえもんは、どこでもドアを狭い病室の中に立てると、寝たきりののび太に話しかけた。


「のび太くん・・・・どこに行きたい?のび太くんの好きな所に一緒に行こう。僕達、いままでだってどこに行くにもず〜っと一緒だったもんね。」


 ドラえもんはそう言うと、のび太を背中におんぶした。


「どっこいしょ。重くなったねぇ、のび太くん……。」


 のび太を背中に背負ったドラえもんは、どこでもドアの前に立って、もう一度のび太に聞いた。


「どこに行きたい?ねぇ、のび太くん。」


 答えが帰ってくるはずはなかった……。


 しかし、一瞬みんなにはのび太が笑ったように見えた。幻だったのかもしれない……。


「わかったよ。のび太くん。…そこへ一緒に行こう…。」


 ドラえもんには何か聞こえたのだろうか?またのび太が微笑んだ。見間違いなどではない。みんな見たのだ。


「のび太くん。じぁそろそろ行こうか……。」


 どこでもドアが、ひとりでに開いた……。


 開いたドアの向こうに素晴らしい景色が広がった……。


 綺麗なチョウチョが飛んでいた。見たこともないほど可憐で、嗅いだ事のないほどいい匂いのお花が咲いていた。まぶしい程の光でいっぱいだった。


 のび太が最後に行きたい所。そこは天国だった。


「さあ 行こう。」


 ドラえもんは動かないのび太くんを背負ってその中に入っていった。


 ギィー… バタンッ


−−−−−−−完−−−−−−−





    







■ 最終回 創作4


 いつもの生活が続いている野比家。


 ママは怒り、のび太は宿題をやらずに遊んでばかりいる。ドラえもんはそんな生活をほほえましげに見つめていた。


 と、突然通信機に連絡が入る。相手は未来世界の全能統括者、マザーコンピュータ。その連絡で、ドラえもんは本来の自分の使命を思い出す。


 実はドラえもんが来た未来社会は機械帝国が支配する世界で、人間達は虐げられ、レジスタンス活動を続けていた。


 そして、そのレジスタンス団『白の同盟』のリーダー、『修羅のノビール』こと片目の戦士ノビール・チギレールこそ、誰であろう野比のび太の成長した姿であった。理工学博士でもあるノビール率いるレジスタンス軍団は、機械帝国の心臓部であるマザーのハッキングを始めており、このままでは機械帝国の敗北は目に見えていた。このままでは機械帝国が危ない、と判断したマザーは、タイムマシンを使い、現代にあるロボットを送り込む。


 そう、それがドラえもんであったのだ。


 のび太ことノビールは、15才より北欧独立戦争に参加し、同時に機械工学の博士号を取る。それは幼少の頃から、運動神経・頭脳ともに人並み以下という環境の中で、彼がコンプレックスを克服すべく必死で努力を続けた結果であった。


 マザーはのび太を亡き者にしようとしたが、それはできなかった。なぜならマザーの基礎理論を作り上げたのもノビールであり、のび太の存在が消えるという事はそのまま機械帝国の消滅を意味するからだ。


 そこでマザーは一計を案じた。のび太の頭脳はその素養のまま成長させ、その心に培われる筈の『反抗心・独立心』というものだけを削り取る作戦を。そして便利な道具を持った夢のロボット、ドラえもんが小学生ののび太の前に現れた。


 彼がのび太の夢をかなえてやると同時に、どんどんのび太の反抗心はなくなっていった。(ただし馬鹿になっては困るので『宿題やれ』と言い続けていた事は周知の事実)


 しかし、段々とドラえもんはのび太の事が好きになり始めていた。否、人間の事を好きになり始めたというのが適切だろうか。のび太はひみつ道具を使って様々な失敗をしたが、その度に少しづつ成長しているのがドラえもんは『嬉しい』と感じたのだ。


 それは、けして自らの血族を持つ事無い機械の彼が、初めて感じた肉親の情だったのかもしれない。


 マザーからの通信は、のび太堕落化計画の打ち切りの通告だった。その代わり、別の時代で独自の理論を別の研究者に開発させる為、もう用済みの「のび太=ノビール」を抹殺し、未来世界に帰還せよとの指令が届いた。


 苦悩するドラえもん。


 のび太は元気の無いドラえもんを元気付けようと色々な努力をする。その全てがドラえもんにとってはいじらしくてしかたない。


 つい涙を流すドラえもん。ドラえもんは、のび太に全てを話すのだった。


 話し終えたドラえもんに、のび太は笑ってみせる。


 ドラえもんは僕の大事な友達だ、そのドラえもんがそんなに苦しんでいるのなら、とドラえもんに背中を向けるのび太。なんということか、のび太はいつの間にか友の為、自らの命も惜しまない真の男に成長していた。


 ドラえもんは再び滂沱の涙をながし、未来世界との通信機を自ら破壊するのだった。第一の部下であるドラえもんの裏切りに、22世紀のマザーは激怒した。


 そして、最強の刺客、ドラえもん5人衆を送り込む。


 バラえもん・フランス貴族のサーベル剣術を使うちょび髭の剣士。


 コーラえもん・黒い。


 アシュラえもん・手が8本ある。顔は3つある。


 キングコブラえもん・へび。寒さが弱点。


 マックスマーラえもん・化粧が得意。


 最強の5人衆を相手に、ドラえもんとのび太、仲間達の最後の戦いが始まった!


 しずかちゃんを人質に取られたドラえもんと仲間達は、遂に最終決戦地(?)である冥凰島に辿り着く。


 一対一の試合形式で5人衆と闘うのだ。


 第一試合 バラえもん      vs 出来杉


 第二試合 コーラえもん     vs 小池さん


 第三試合 アシュラえもん    vs バギーちゃん(2代目)


 第四試合 キングコブラえもん  vs ピー助


 第五試合 マックスマーラえもん vs ジャイ子


 このメンツ構成の中にいつものメンバーがいない。


 そう、ドラえもんとのび太率いる一軍(ジャイアン・スネオ)は、この隙に未来世界に乗り込み、マザーコンピュータを破壊すべくノビール(未来ののび太)と協力し、中央指令塔に潜入していた。ノビールは歴戦の勇者であった。だが、少し精神に異常をきたしていた。目の前で恋人(=しずかちゃん)を殺された為に、機械帝国に対して異常な憎しみを抱くようになったのだ。


 同時に、彼はレジスタンスになる前の記憶を全て無くしていたのだ。


『死ね!死ね!虫どもめッ!虫ィィィィィィッッ!!』


 彼の中にあるのは憎しみの記憶だけであった。


 マシンガンで機械帝国の虫型ロボットを破壊するノビール。そんな彼をみてのび太は、それが未来の自分の姿である事にショックを受ける。自分の中にもあのような凶暴な血が流れているのか、と。


 そんなのび太にドラえもんはそっと告げる。未来を決めるのは君のチカラなんだ、自分の中のチカラを信じる事ができれば、運命なんて簡単に変わるんだよ、と。


 そのころ冥凰島では、出来杉がバラえもんに刺し殺されていた。


 中央管制塔には機械獣たちが集結していた。あまりの猛攻に、のび太達は一時撤退する。


 ノビールは、敵の手際のよさを怪しみ、ドラえもんを疑う。彼から見ればドラえもんも憎き機械帝国の一部に過ぎないのだ。皆の制止を振り切って、ノビールはドラえもんを破壊しようとする。あえて抵抗しないドラえもん。


 だが、ドラえもんを刺し殺そうとしたノビールのジャックナイフの前に、のび太が立ちふさがる。ナイフはのび太の胸に突き刺さった。


「だめだよ…ドラえもんは僕たちの為に苦しんでるんだ…」


 昔の自分の姿に真の勇気を見るノビール。


 このままではのび太が死に、同時にこの未来世界そのものが消滅する。この世界では四次元ポケットが使えない上に、タイムマシンもマザーの干渉を受け停止している。一刻も早くマザーを倒すしかない。だが、ノビールは放心状態であった。


 そのころ冥凰島では、小池さんがコーラえもんをラーメン責めにしていた。


 マザーのあるセントラルタワーへの道は、最強の敵達によって埋め尽くされていた。マザーの命令電波を受けて動く、虫型ロボットの軍隊である。途中の戦闘で、ジャイアンは両足に重傷を負う。ノビールの仲間達、『白の同盟』の戦士達も次々に死んで行く。スネオは恐怖し、泣き叫ぶ。


「もう帰ろうよジャイアン!!本当に死んじゃうよ!!」


 しかし、剛田武(正式にはこう書く)は、そんなスネオを殴る。


 のび太が、ドラえもんが必死に戦っているのに、俺達は何もできないというのか、と。スネオはまだ俯いているばかりだ。そしてジャイアンは高らかに歌う。皆を勇気づける為に。


『ホゲ〜』


 その時。奇跡だろうか、虫型ロボット達の動きが止まった。驚くのび太一行。ジャイアンの歌声とマザーコンピュータの電磁波が共鳴し、虫型ロボットへの命令系統が一瞬麻痺したのだ。ある程度の時間ならこの大群を足止めできるかもしれない…。


 突然、ジャイアンが皆をドアの向こうに突き飛ばす。ドアは堅く閉ざされた。


『みんな先に行けッ』


 ジャイアンは皆を先に進ませる為みずから捨て石となるつもりであった。


『ジャイアン!!』


 みなドアにすがる。ドアの向こうからは、いつものジャイアンの


『ホゲ〜ホゲ〜〜ホゲ〜〜〜!!』


という必死の歌声が響く。それは、まるでワーグナーのシンフォニーの如く。動きを止めている虫型ロボットも、まるでそれに聞き入っているかのようだ。喉から血をだしながら、武は歌いつづけた…。


『みんな行こう!!僕らがいつまでもここにいたら、ジャイアンが何の為にあそこで頑張ってるのかわからないよ!!』


 声を上げたのは、泣いていたスネオだった。皆、涙をこらえ、エレベーターに向かう。エレベーターは動き出した。


 背後で、歌声が止まった。


 ジャイアンは、一瞬ののち、細切れの肉片と化した。


 そのころ冥凰島では、バギーちゃん(二代目)がアシュラえもんに解体されていた。


 ノビールは苦悩していた。自分は、のび太なのである。今、幼い頃の自分が死にかけている。そして、親友であったというジャイアンは死んだ。過去が、すさまじい勢いで回天している。この未来世界自体の存在も歪み始めている筈だ。


 だが、自分がここにいるという事は、幼いのび太は死なないという事だろうか。このタイム・パラドックスの渦の終末はどこなのだろうか。自分の失われた記憶に何があるのだろうか。


 4人をのせたエレベーターは最上階につこうとしていた。


 その頃冥凰島では、決戦が佳境に入っていた。


『ぴー』


『シャアー』


 蛇が恐竜にかなうわけが無い。ピー助がキングコブラえもんを飲み込み、これで2−2。


 勝負の行方はマックスマーラえもんとジャイ子との戦いに持ち越された。しかし女らしさと無縁であるジャイ子にマックスマーラえもんの洋服攻撃も通用しない。まるで兄が乗り移ったかのような豪快な一撃で、マックスマーラえもんは吹き飛んだ。勝負は、3−2でドラえもん復活キャラチームの勝利に終わった。


 しかし、勝負に負けると自動的に爆発を起こすような仕掛けがドラえもん5人衆には仕掛けられていた。現代の水爆の1兆倍の質量を持つ爆弾が、5個同時に誘爆する。


 冥凰島のあるインド山中(彼らはその位置を知らされていない。謎のヘリコプターに乗せられてここに来た)を中心にユーラシア大陸が吹き飛んだ。冥凰島はもちろん吹き飛んだ。


 と、同時に空間に歪みが生じ、『時震』が起こった。ドラえもんチームはそれぞれ、さまざまな時代に吹き飛ばされてしまったのである。


 小池さんは古代中国に吹き飛んだ。


 そこにはラーメンが無かったので、小池さんは我慢できず、自分でラーメンを作った。なんと、ラーメンの発明者は小池さんだったのだ。


 この後小池さんは中華料理の大家として名を馳せるのだが、それはまた別の話。


 ピー助は奇跡的にもとの世界に帰れた。よかったね。その後恐竜界の帝王となるのだが、それはまた別の話。


 ジャイ子は14世紀のフランスに飛んだ。そこで、天から降りてきた乙女として、フランス革命戦争に参加した。彼女は自分の名を『ジャイ子』と言ったのだが、フランス人には発音しにくかったらしく、どこかで『ジャンヌ』と歪んで伝わった。というわけで彼女はジャンヌ・ダルクになったのだが、それはまた別の話。


 遂にマザーコンピュータと対峙するノビール一行。もうほとんどのび太は虫の息だ。マザーコンピュータにマシンガンを向けるノビール。


 その時。マザーの中枢部分が開いた。そこには、なんとしずかちゃんが!!その時、ノビールは全てを思い出した。


 しずかちゃんを殺したのは、のび太の作ったロボットだったのだ。理工学博士になったのび太は北欧独立戦争で人々が死んでいく事に深い悲しみを感じ、機械兵士を作ろうとした。そして、そのプロトタイプ第一号が暴走し、そばにいたしずかちゃんを殺した。狂気にとりつかれたのび太は、しずかちゃんの記憶を持ったロボットを作ろうとした。


 そしてできたのがマザーコンピュータだった。そうだ、そして彼が作った第一号の戦闘機械兵士こそ…


 もともと、戦争を終わらせようとして作った平和の色、青。


 過度な残虐性を持たせぬ為にデザインした、球体。


 どんな武器だろうと装備できるような、自由変形物質製の手。


 彼が幼い頃にみた、あの親友の姿。そう、目の前にいるドラえもんであった。


 ノビールは全てを思い出したのだ。そして、目の前にいるしずかちゃんは現代でドラえもん5人衆が吹っ飛んだときの『時震』で、時空を超え、姿は違えど同じ魂を持つマザーに引き寄せられ、一体化してしまった現代のしずかちゃんだという事を知った。


 もともと、ドラえもんが現代で幼いのび太に出会った事が、このタイムパラドックスの渦の原因であったのだ。


 このまま、こんな悲惨な歴史を繰り返すわけには行かない。ノビールは決意した。この世界を消す事で、歴史の流れを正常に戻そうと。


 そして、ノビールはマザーに銃を向け、自分の歪んだ愛情の結晶を破壊する。マザーの干渉が消え、タイムマシンが動くようになった。機械帝国は壊滅していく。そこかしこで起こる爆発。


 しかし、まだ一つ残っていた。ドラえもんが…。


 ノビールは、ドラえもんに銃を向ける。ドラえもんは、全てを知っていた。そして、理解していた。最後にドラえもんは、そっとのび太の顔に手を当てる。


『未来は、運命は自分の手で掴むものなんだ』


と、その眼が語っている。


 のび太とスネオをのせたタイムマシンが、現代に向けて飛び立つ。二発の銃声が響き…。


 現代。


 何事も無かったかのように日常がまた続いている。


 ドラえもんは当然、現実の社会にはいない。死んだ筈のジャイアンや出来杉も、普通の生活を送っている。のび太は、奇跡的に命をとりとめた。しかし、ドラえもんそのものの記憶を失なっていた。


 だが、なんの不都合も無い。もともとドラえもんなんていない世界なのだ。病院で眼を覚ましたのび太の手には、金色の鈴が握られていた。のび太は、その鈴がなんなのか、思い出す事はその後二度と無かった。決して、思い出す事は・・・。


 時の旅人として一人、スネオは全てを知っている人間として残された。なぜか、元の世界には別のスネオがいたためだ。一人だけ記憶の残っているスネオに、「時」という偉大な力が干渉した為であろうか。スネオはタイムマシンを降り、破壊する。


 そこは、昭和初期の日本。


 そこでスネオは、モトオという友人と知り合う。


 スネオは当然全てを話しはしない。ただ、ときどき面白おかしく、元いた世界の話をするのみ。二人はいつしか、その世界をマンガにし始めた。


 忘れはしない、あの頃の友人達。


 勇敢に戦い、勇敢に死んでいったジャイアン。


 いつもやさしかったしずかちゃん。


 いじめられてはいたけれど、たまに真の強さを発揮したのび太。


 そして、不思議で悲しい運命を背負った猫型ロボット、ドラえもん。


 忘れる筈はない。彼のペンは、いきいきと昔の友人達をつづった事だった。


 そして、時は経ち、二人は青年になり、漫画家になった。


 そのペンネームは・・・。




    


当サイトは、TOPページのみリンクフリーです。
リンクは、http://www.yajiman.com/ へお願い致します。
バナー

当サイトの無断転載・直リン等を禁止します。